神を見た日


トランスのパーテー会場ってのはアレですな、タイやインドに永住してるでしょ? ってな典型トランス好きッコが6割、割と一般のダンス好きッコが4割、こんな分布してますな、と最近まで思ってたんですが、武尊祭という(主に環境が)ハードコアなパーティーに行ってみたところ、どうやらハードコアさに応じて、一般層は数割減じ、代わりにユニークな踊りをする人、ユニークないでたちの人、ユニークな奇声を発する人、などの“自由闊達過ぎる人”が増加することがわかりました。

そんな武尊山頂で目撃した闊達の達人の中でも、特筆すべき闊達さを滲ませた人物がおりました。ここでは「神」と称しましょうか。神は明け方の会場に突然降臨しました。

見た目の年の頃は50に近いくらい、ドレッドヘアを無造作に束ね、背中に穴の空いたTシャツ、ジャージかゴアパンかわからないパンツ、裸足、常に満面の笑顔、但し歯が一本という、(目を合わせたくないッ!)と本能が判断するようなユニークすぎる特徴で溢れ、あらゆる薬物でもその衝撃を緩和できなさそうなオーラをまとってました。

その神は BPM130 くらいのヨツウチの海で、せっかくの BPM を無視した古式泳法のリズムで平泳ぎをしていたのですが、突然大地のヴァイヴを得るかのように、俯せになったのです。

そして神はおもむろに、たまたま周囲にいた体育座りの女子の足首を掴むと、踏むように命じるかのように自らの背中に導いたのであります。驚く女子。動じない神。

女子は苦笑いをするとそっと足を降ろし、スタコラサッサといずこかへ消えたのですが、僕らは悟りました。これこそが神が与えたヒーリングなのだと。神はきっとその女子が足を痛めており、満足に踊れないことを察し、大地より吸い上げたヒーリングパワーを授けたのに違いありません。

などと考えたその刹那、神は立ち上がり、またしても平泳ぎを模したチャネリングスタイルで今度は僕の前に立ちはだかったのです。いつ「宇宙はひもだ!」とか俺に悟りを授けるかわからない間合いになりました。必死に目を合わせない僕、満面の笑みを授ける神。System7 のライブ中でありました。

神は明らかに僕を凝視していたそうです。そして神々しくて顔を上げられない僕の代わりに、友人が目撃した光景は、「神による投げキッス」だったのだそうです。神は畏れ多くも「ゴッド、ブレス、ユー…」のリズムでゆっくりと両手を唇にあて、僕に向かって投げ放ったというではありませんか。

その事実を後から知った僕は、(これは何らかの福音…?)と期待と不安が入り交じった心境に平常心を失い、Domino どころではなくなりました。

数時間後、何事もなく武尊祭は終了してしまい、取り越し苦労だったのか? と思っていた矢先、会場→駐車場を搬送する観光バスに揺られ、駐車場に着いた後にトラブル発生です。バスの横腹にある荷物スペースの扉が開かなくなるという事態が。運転手や同乗した屈強な若者が幾度もトライするも、持ち上がってはくれません。うろたえるバスの運転手は他のバスに連絡を取って解体工具をオーダーの模様。(ああ、これは部品を外すしかない…せっかく早く切り上げて渋滞避けようと思ったのに…)という諦めムードの中、虚弱代表の僕が何気なく持ち上げると…

ドアは開きました。プチ喝采が僕を包みます。僕にも少しだけ奇蹟が起こせました。
これこそが神による投げキッスの効果であったのだろうと感じる今日この頃であります。

ただしその後、特にいいことはありません。


ピカメケもどる| ピカサムシング